洋服のカジュアル化が加速する中で、その反動として『クラッシック回帰』の動きも近年見られるようになった。必ずモノには二極がある。好きか嫌いか。嬉しいか悲しいか。当然の理といえばそれまでなのだが、もう一歩深く突っ込むのであれば、二極とも必要な要素である。どちらか片一方しかないというはずが無いのだ。
好きという感情は、嫌いという感情を味わって初めて浮き彫りになる。他の感情も同様。装いについては別ではないのか。という声が聞こえてきそうであるが、カジュアル一辺倒で済む筈がない。慶事や弔事ではドレスコードがあり、人生において一度は必ず経験する。
厳粛な慶事や弔事はともかく、パーティや交流会での装いに、平凡な洋服選びをされている方も多い。男性なら普段のビジネススーツそのままなどがいい例。経営者や個人事業主など、自身のブランディングがビジネスに影響する身嗜みにおいては工夫が必要。カジュアルが洒落ていれば、その落差は激しく逆もしかり。
ドレスさえしっかりできていれば、カジュアルシーンでも工夫することができる。逆はそうはいかない。いついかなるシーンにおいても、迷いなく装えるように学んでおきたいもの。ゆえに私はドレス基準なのだ。
◎一本はもっておきたいもの◎
ブレーシーズ(braces)である。イギリス英語ではこう呼ばれ、日本でもなじみの深いサスペンダー(suspenders)はアメリカ英語で、イギリスではガーターやアームバンドを指す。形も様々あり、H型、X型、Y型、風変わりなショルダーホルスター型などで、現在はY型が主流となっている。
トラウザーズ(パンツ)を吊る方法は2種類。挟んで吊るクリップ金具のものと、ボタン止め式のもの。クリップ金具はボタンを付ける必要がないため取り入れやすいが、トラウザーズの生地を傷めやすく、前屈姿勢を取るなど身体の稼働角度によっては外れやすい。デニムなどのカジュアルウェアに、アクセサリーとして付ける時以外は、ボタン留めを取り付けた方が外れる心配もなくスマート。現在ではクリップ、ボタン兼用のブレーシーズが出回っているので、購入する際はそちらを選んだ方が、あらゆるシーンに活用できる。
厳粛なシーンにおいては、着用時のルールが決まっている。下記URLのカインドウェアさんのホームページを参考に。日本のフォーマルウウェアと、TPOに応じた着こなしのルールが一目瞭然である。ただし欧米文化のそれとは違うので、海外での行事に参加する場合は要注意である。
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◎ブレーシーズの歴史とベルトへの移行◎
洋服は英国がルーツであり、日本の開国と同時に明治新政府が、世界と渡り合うために英国式を採用したことから、日本にも流入したことは以前にも記した。カジュアルという概念自体が存在せず、トラウザーズのシルエットを美しく演出するためであり、吊るという履き方以外に他はなかったのだ。
ベルトが一般化されたのは第二次大戦後。合理主義国家のアメリカ発祥である。もともと軍服のベルトに、道具や武器などをぶらさげるため、機能的に重宝されていたことの流用らしい。現在でも工事現場の職人の姿を見ると、腰ベルトに多くの道具がぶら下がっているのをみると、イメージしやすいだろう。
ヴィンテージショップのレアものでは、50年代までのデニムなどのワークウェアにも、ブレーシーズのボタンが付いているのがわかりやすい事例。カジュアルという言葉はあったものの、ファッションという枠組みで使われるのではなく、スーツ以外の洋服を総称してカジュアルと呼んでいた。
肩が凝るブレーシーズよりも、ベルトの方が機能的にも重宝され、一気に広まって行ったのは想像に難くないだろう。スーツの大量生産を可能にしたサックスーツもアメリカ発祥。機能性バンザイなお国柄こそなのか。
では、何故ブレーシーズがスーツの品格をあげる効果があるのかは、次回の記事に。本日はこれまで。